ようやく昨年2023年にコロナが5類とされ、あらゆることがコロナ禍以前に向かっていくと思われる中、世界では分断、紛争、戦争状態が拡散し、2024年も年明けから震災や事故が発生したり、自身の身の回りも含め穏やかな日常を守りたいという思いとは異なる状況が続いている。
そんな中で非常に興味を惹かれた映画について語ってみようと思う。
小説やラジオのような想像力を掻き立たせる映画
主人公は無口なトイレ清掃員で、他にも登場人物はいるが、主人公は多くを語らない。シフトを守り、日々の仕事を淡々と、しかし丁寧にこなしていく。
主に古本屋で購入したと見られる本の読書や、大切にしてきたと思われる昔のミュージックテープで音楽を聴いている。また、植物に水をやり、公園で見る木漏れ日をフイルムカメラで撮影している趣味を見ても、人に対する対応を見ても日常を大切にし人間を嫌ってはいないことを感じるのだ。
趣味に関しても主人公から語られることは無いし、何故、昭和の匂いがする古いアパートに1人で暮らし、トイレの清掃業に従事しているかも、いわゆる一般的な回想シーンも無く、不明なまま映画は終わる。
しかし、主人公を訪ねてくる姪や妹との短い言葉や態度などで、こちらの想像力を掻き立てられるのだ。それが読書をしたり、ラジオを聴いているときに近い感覚となった。
ラジオ番組や書籍によっては想像の余地が無く、多くを語られるものもあるが、あえて語られない部分があることで、読者や視聴者は各自の人生、経験と照らして映画の主人公や他の登場人物がどのような人生を歩んできたのか想いを馳せることが出来るのである。
当方は元々アクションやSF映画を好んで観て来たが、銃撃戦などのバトルもあくまで映画の中の世界なので娯楽として楽しめていた。しかし、拡散するばかりの世の紛争、戦争のニュースを見るにつけ娯楽として楽しめなくなってしまったのだ、
フェイクも含めて、あらゆる情報の波に押し寄せられ、人の痛みに寄り添えない事象を見聞きするたびに想像力の欠如と、想像力の必要性を強く感じる。
自戒も込めて、人々に想像力と相手を思いやる気持ち、心を今一度見直したくなる映画である。
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